◆保安装置 |
常用閉そく方式が自動閉そく式の場合には、自動閉そく区間内では運転者が信号さえ守っていれば列車事故は起きない事になります。ところが運転者も人間ですから信号を見落としたり、判断ミスをしたりする事が無いと言い切れません。これら信号を守らなかった場合のバックアップ手段が、古くから議論されてきました。事業者が従業員を信頼していない事が前提のバックアップ手段ですから、労働組合側の強い反発もあったようです。
そんな中、国鉄や各地の私鉄において重大事故が何度となく発生し、あきれ果てた運輸省(当時)が重い腰を上げて都市部の大手私鉄に対して自動列車停止装置の整備を通達しました。これにより全ての大手私鉄がATSを整備するに至りましたが、具体的な仕様については各社に一任されたため、結果として各社で様々なタイプのATSが登場しました。
この通達によって、東武鉄道は昭和43年に独自の自動列車停止装置を導入する事になります。
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◆東武式ATS |
停止現示、警戒現示、注意現示の信号機に接近した列車に対して速度照査を行い、各現示に応じた規定の速度を上回る事が見込まれる場合に非常ブレーキを作用させるものです。具体的には下記に示すように五つのステップによって速度照査が進んでゆきます。
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◆第一ステップ
進
行 |
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減
速 |
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進行、または減速現示の信号機に接近しつつある場合には、信号による速度照査は受けず、車型に応じた最高速度の照査が連続的に行われます。これをフリーモードと言い、照査に当たると非常ブレーキが作用します。
◆車型による最高速度
・自動ブレーキ車 : 95km/h
・電磁直通式、または電気指令式ブレーキ車
本線系 : 100km/h
200系 : 110km/h
100系 : 120km/h
東上線 : 105km/h
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◆第二ステップ
注
意 |
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警
戒 |
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注意、または警戒現示の信号機に接近しつつある場合には、まず信号機まで360mとなる地点に置かれたP3地上子によって90km/hの照査を受けます。これも連続照査で、照査速度を上回る場合には非常ブレーキが作用します。
なお、照査モードに入った事を運転者が表示灯等にて認識することはできません。
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◆第三ステップ
(第一パターン)
注
意 |
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警
戒 |
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注意、または警戒現示の信号機に更に接近すると、信号機まで180mとなる地点のP2地上子によって90km/hから60km/hまで降下する照査パターンが発生します。これを第一パターンと言います。
このとき速度計の60km/hの付近に橙色の「60」表示灯が点灯し、第一パターンモードに入った事を認識する事が出来ます。照査に当たると非常ブレーキが作用し、信号機位置までに60km/h以下に落とされます。
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◆第四ステップ
(第二パターン)
停
止 |
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停止現示の信号機に接近しつつある場合には、信号機まで180mとなる地点のP2地上子によって60km/hから15km/hまで降下する照査パターンが発生します。これを第二パターンと言います。
このとき速度計の15km/hの付近に橙色の「15」表示灯が点灯し、第二パターンモードに入った事を認識する事が出来ます。照査に当たると非常ブレーキが作用し、信号機の外方地上子(P1)の位置までに15km/h以下に落とされます。
停止現示に対しては、手動ハンドル操作にて信号機の外方で停止しなければなりません。
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◆第五ステップ
停
止 |
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絶対停止信号と、停止信号とでは取り扱い方が異なります。
停車場にかかわる絶対信号機の停止現示に接近すると、信号機まで約25mとなる地点のP1地上子によって即時停止照査を受け、非常ブレーキが作用します。この場合には制動弁EBにてATS復帰SWを押下しないと緩解することはできません。緩解後も新規に別の照査を受けるまでATSによる15km/hの照査が連続的に残ります。
自動閉そく信号機の場合には、手前約25mとなる地点にP1-2地上子がありますが、こちらは即時停止照査は行いません。現示上昇時の追従機能のみを司っています。
自動閉そく信号機が停止現示の場合には、一旦停止してから一分経過後に徐行進入して良い事になっていますが、この後は新規に別の照査を受けるまでATSによる15km/hの照査が連続的に残ります。この取扱いを「無閉そく運転」と言い、照査に当たると非常ブレーキが作用します。
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◆誤通過防止装置 |
◆本線系方式
伊勢崎線など本線系の車両には橙色の「次駅停車」表示灯が設けられており、一つ手前の駅を発車または通過後に点灯します。停車駅に接近すると最遠部の停止位置まで約500mとなる位置にて誤通過防止モードに入り、120km/hから降下する照査パターンが発生します。同モードに入ると「次駅停車」表示灯は点滅に変わります。
照査パターンに当てることなく停車すると、側引戸の開き扱いによって自動的に同モードは解除されます。
なお、本データでは説明用に東京急行8500系車両に「停車」表示灯を設けましたが、実際に表示灯が設置されているのは東武鉄道の車両のみです。
◆東上線方式
東上線の場合は地上子によって列車側へ駅接近情報を与えます。このためATS用の白色の地上子とは別に、専用の青色のMMP地上子が駅の手前二ヶ所に設けられています。この青色の地上子を踏むことでATSと同仕様の90km/h→60km/hの第一パターン、60km/h→15km/hの第二パターンの二段階の速度照査パターンが発生し、速度計にそれぞれの照査表示灯が点灯します。
照査パターンに当てることなく停車しても側引戸の開き扱いでは解除されず、出発(相当)信号機用のP1地上子を踏んではじめてモード解除となります。
いずれの線区においても、誤通過防止装置の照査パターンに当たると非常ブレーキが作用します。この場合には停車後に復帰扱いをしないと緩解しません。
なお、信号による速度照査と、誤通過防止装置の照査とが同時に作用する場合には、より照査速度の低い方が優先的に作用します。
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◆裏ワザ |
勘の鋭い方はもうお気付きでしょうが、ある裏ワザがあります。ヒントは「あts45」です。
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